今回の対象は、
身体拘束の研修を考えている方
です。
今回は
身体拘束の研修の資料用となります。
そのままレジュメとして使用していただける内容です。
目安としては約30〜40分でやる内容です。
是非、プリントアウトしてご利用ください。
あなたは「スピーチロック」という言葉を聞いたことはありませんか?
- ちょっと待ってください。
- 座って待ってください。
- 動かないで。
何十年も介護士をやっているベテランでも、ついつい使ってしまう声かけです。
しかし、スピーチロックは行動を制限するもので決して利用者様にとって気持ちのいいものではありません。
楽しむためにデイサービスに来たはずなのに、スタッフの声かけで利用者様が不快になる。
それでは、利用者様はなんのためにデイサービスに来たのかわからなくなります。
スピーチロックを完全に防ぐのは難しいにしても、できるだけ数を減らす努力は必要です。
その為には利用者様の気持ちに気づくことが必須です。
スピーチロックで利用者様がどんな気持ちになるのか気づくのに最適な方法がロールプレイです。
今回は、身体拘束に簡単に触れつつスピーチロックについて理解を深めていきましょう。
ここから研修資料をダウンロードできるよ
絶対やってはいけない!!【身体拘束の恐怖】
身体拘束は高齢者の動きを制限することです。
身体拘束の具体例
- 徘徊しないように、車椅子や椅子、ベッドに体幹や四肢をひも等で縛る。
- 転落しないように、ベッドに体幹や四肢をひも等で縛る。
- 自分で降りられないように、ベッドを柵(サイドレール)で囲む。
- 点滴・経管栄養等のチューブを抜かないように、四肢をひも等で縛る。
- 点滴・経管栄養等のチューブを抜かないように、または皮膚をかきむしらないように、手指の機能を制限するミトン型の手袋等をつける。
- 車椅子や椅子からずり落ちたり、立ち上がったりしないように、Y字型抑制帯や腰ベルト、車椅子テーブルをつける。
- 立ち上がる能力のある人の立ち上がりを妨げるような椅子を使用する。
- 脱衣やおむつはずしを制限するために、介護衣(つなぎ服)を着せる。
- 他人への迷惑行為を防ぐために、ベッドなどに体幹や四肢をひも等で縛る。
- 行動を落ち着かせるために、向精神薬を過剰に服用させる。
- 自分の意思であけることのできない居室等に隔離する。
厚生労働省HPより引用(https://www.mhlw.go.jp/shingi/2006/08/dl/s0801-3k10.pdf)
これらは全て介護保険の指定(都道府県が「ここは介護保険施設ですよ」と認めること)するのに禁止されている項目です。
ベット静養中にスタッフが見てない間に床へ降りて事故扱いになるのが嫌だからとベット柵で囲ってしまうのは完全にアウトです。
勉強していないと「えっ、それって身体拘束だったの?」となりかねません。
なぜ、身体拘束をしてはいけないのか?【3つのダメージ】
身体拘束をすると利用者様には3つの悪影響(ダメージ)があります。
- 身体的なダメージ
- 精神的なダメージ
- 社会的なダメージ
身体拘束で利用者様が嫌な思いをするだけでは済みません。
それでは具体的にそれぞれのダメージについて解説します。
身体的ダメージ
体の動きが制限されることで、筋力の低下や褥瘡が悪化します。高齢者の体は動かないとすぐにADL(お体の状態)が悪化します。
さらに「ベット柵で囲む」などをしていると、利用者様が無理にベット柵を越えようとして転落する可能性もあります。
精神的なダメージ
紐で縛られて嬉しい人なんかいませんよね?高齢者も体が動かないようにされたくありません。
身体拘束を続けると「なんで好きにさせてくれないの?」「もう死にたい」と精神的なダメージを利用者様に与えることになります。
さらにひどくなると、認知機能が低下し、せん妄などが頻発するようになります。
家族様にとっても気持ちの良いものではありません。
社会的なダメージ
身体拘束を続けると褥瘡の悪化など、身体の状態が悪化し、本来不要であった医療的なケアが必要になったりします。
そうすると、利用者様本人への経済的な負担を増やしたり、今まで行けていた買い物外出が行けなくなることで社会参加の機会を失うことにつながります。
身体拘束を続けると、利用者様のQOL(「生きててよかったなー」と思える状態)が低下します。身体拘束をするのではなく、利用者様が納得できるケアを心がけることが身体拘束を避けるポイントです。
意外とやってしまっているかも?【身体拘束】
「身体拘束なんて、私は絶対していないよ!!」と思っていると意外な落とし穴にはまります。
あなたにとって何気ない行動は実は「身体拘束」になっている場合があります。
実を言うと、私も身体拘束をしてしまったことがありました。
ベット静養中によくベットから降りる方がいました。
当時の職場のルールでは、足の裏意外が床についた時点で「転倒」と見なされます。
当然、事故報告書を書いたり家族様に謝罪したり、上司に報告したり・・・
正直言って怪我もないのにめんどくさいことこの上ありません。
そこで、床に降りられないようにベットの四方を柵で囲ってしまったのです。
それ、「身体拘束」だよ!!
そう言われてショックでした。
自分では認識していない行動が「身体拘束」になる場合があります。
止むを得ず身体拘束をする場合に満たさなければいけない3つの要件
止むを得ず身体拘束をしないといけない場合があります。
そのためには3つの要件をすべて満たさなければいけません。
身体拘束は3要件全てを満たしていた場合。
- 職員全体で会議、教育(本当に身体拘束が必要かを検討する)
- 家族様の同意
を経て実施されます。
身体拘束は利用者様のその後の人生を大きく変化させるので、極力実施しないでおきたいところですね。
ついやってしまうスピーチロック。【振り返ってみよう‼︎】
普段何気ない利用者様への言葉かけでも「スピーチロック」にあたるかもしれません。
身体拘束になるかどうかは専門家でも意見が分かれるところで微妙な問題です。
しかし、スピーチロックは利用者様の良い影響を与えることはありません。
スピーチロックは言葉で利用者様の行動を制限すること
スピーチロックとは、声かけで利用者様の行動を制限することです。
具体的には次の言葉がスピーチロックにあたる言葉です。
スピーチロックに当たる声かけ
- ちょっと待ってください。
- 座っていてください。
- ご飯を全部、食べてください。
- 立たないでください。
- そんなことはやめて下さい。
スピーチロックは身体拘束とは違い直接、利用者様の体の動きを制限するわけではありません。
しかし、使い続けると利用者様に悪影響を与える点では身体拘束と変わりません。
スピーチロックは意外と職場でやってしまっている。
本当は良くないと分かっていてもついやってしまうのがスピーチロックです。
自分の体は一つしかないのに複数の利用者様からあれして、これしてと言われるとついついスピーチロックに当たる声かけをしがちです。
スピーチロックをしてしまいやすい状況
- 業務が忙しいとき
- 介護士自身の体調が悪かったり、メンタルが落ち込んでいる時。
- 対応困難な(セクハラや暴言暴力がひどいなど)利用者様がいる。
- 予測不能な状況に追い込まれたとき
介護士に余裕がないときや、利用者様の状態が落ち着かないときに起こりがちになります。
無意識のうちに出てしまうので、気づかなければ改善できません。
どんな場面で行ってしまってるのか、職員同士で話し合ってみましょう。
「私、意外と使ってたわ」とスピーチロックしていた場面に気づけるようになります。
スピーチロックを避ける為の対策の一つは「なぜそうするのか?」を利用者様に理由説明をする。
利用者様の声かけの仕方が「スピーチロック」なるかならないかの一つのポイントは
利用者様が納得できるかどうか
です。
身体拘束は利用者様の行動を制限するものです。
つまり、利用者様の「意向に関係なく」実施されるものです。
スピーチロックにあたる様な声掛けでも利用者様が納得した上であれば身体拘束には当たりません。
利用者様に「なぜその様にしていただきたいのか」理由説明と代替え案「その代わりに介護士でどの様にするのか」を付け加えることで納得してもらいやすくなります。
理由も分からずに「ちょっと座っていてください。」と言われたら、利用者様も納得することはできません。
スピーチロックのロールプレイをしよう!
「利用者様の立場から考えて」、「利用者様の目線から見るように」と言われても利用者様のことを理解するのは難しい。
置かれている状況が介護士と利用者様で違うからです。
そこで、利用者様の気持ちを理解する良い「練習方法」があります。
それがロールプレイです。
ロールプレイをすることで、利用者様の気持ちの動きを理解することができます。
ロールプレイの目的は、利用者様、介護士、第三者から見える見え方の違いを職員間で共有すること。
立場が違えば、感じ方が違ってきます。
同じ排泄介助でも、利用者様が感じる感じ方と介護士が感じる感じ方は全く違います。
ロールプレイの目的はその立場になったつもりで演技することで、利用者様の気持ちやその状況での介護士の心の動きを理解することです。
まずは、理解することが身体拘束を防ぐ第一歩となります。
それでは、ロールプレイのルールについての説明です。
ロールプレイ(寸劇)のルール
- 最低2つのグループに分ける。
- グループで役割を決める。
- 役割は、利用者様役、介護士役、発表者(第三者)、まとめ役は必ずつける。
- ロールプレイの最初と最後は拍手する。
- ロールプレイ中は、私語厳禁。ロールプレイの観察に集中する。
- 否定をしない。
- 割り当てられた役になったつもりで演じる。
- 事例はいい例、悪い例を実施する。
- ロールプレイを見ていた方のグループのメンバーは全員必ず感想を発表する。
- みんな仲良くロールプレイをしましょう。
ロールプレイのポイントは気づいたことを参加しているメンバー全員が共有すること。
発表することで気づきに対する理解が深まります。
また、他の人が発表しているのに聴いていない態度をとっていると発表しづらくなります。
最低限、これらのルールは守ってください。
ロールプレイの流れ(研修の司会者は時間管理もしましょう)
- 配役を決める
- 細かい設定を決める。
- 一度、ロールプレイの練習をする
- 本番
- 相手のグループが感想を言う。
- 相手のグループのロールプレイを実施
- 自分のグループが感想を言う
- 司会者がまとめる。
ロールプレイを実施するときの注意点は「時間管理」をすることです。
流れの各項目を時間無制限にしてしまうといつまで経ってもロールプレイをすることはできません。
各項目制限時間をつけて進めてください。
【ロールプレイの見本】
(悪い例)
あのー。
(立ち上がろうとする)
あっ!!
Aさんが立ってる。
この前も帰宅の訴えが強くて転倒したのにっ!!
あのー、まだ帰れんのやろか?
Aさん立たないでください。
この前も転倒したでしょ?
今日、お客さん来る予定なんやけどまだ帰れんのやろうか?
(また、立とうとする)
だから、こけてはいけないから座っててください。
もうちょっとしたら、車で送っていくので。
(無理やり座らせようとする。)
あっ!!
(良い例)
あのー。
(立ち上がる)
この前もAさん、立ち上がって転倒しているわ。
この時間になると、帰宅願望が強くなって立ち上がりがよく見られるわ。
とりあえず、Aさんのお話を聞かなくては。
Aさん、どうされました?
今日お客さんが家に来るから早く帰らせて欲しいんやけど。
もう歩いて帰ろうかな?
Aさんのお家までは、歩いて帰ると1時間以上かかるので、ここの車で送っていきますよ。
今、車の準備をしています。
コケると痛いし、怪我したら家ではなくて病院に行かないとけなくなるから、こちらのお席に座っていただけますか。
そうか、10分したら車で送ってくれるんやね。
どこで待ってたらいいんやろうか?
こちらでお待ちください。
帰りのお車が準備できたらお送りしますよ。
ずっとたったままだと疲れるので、
おかけになってお待ちいただけませんか?
うん、わかったわー。
ここで座って待とくわー。
ロールプレイの振り返り
感想や気付いたことを書き込んで使用してください。
最後にみんなで感想を発表しましょう。全員発表が原則です。発表中は、その人の顔を見てしっかりと傾聴しましょう。
まとめ
身体拘束のポイント
・身体拘束は高齢者虐待。
・「やむを得ない」場合は、3つの要件をすべて満たした上で、ご家族の同意が必要。
・スピーチロックも身体拘束。
・意外とスピーチロックはやりがち。
・理由を説明することで、スピーチロックが回避される。
・ロールプレイで利用者介護士の気持ちを理解しよう。
利用者様の立場に立って考えると言っても、介護士であなたが想像だけで利用者様の気持ちを考えるって難しいですよね?
高齢者になったことがないからです。
ロールプレイは「高齢者になったつもり」でスピーチロックを受ける状況を再現するので、利用者様がどう感じているのか気づきやすくなります。
実行してみて初めて気づくことです。
研修担当になったあなたも実際にロールプレイを取り入れてください。
今までの研修より気づきが増えることは間違いありません。
その他「櫻 絢音のゆる〜い相談室❤︎」ではデイサービスで働く新人介護士がゆる〜く働くために必要な知識や介助スキルのノウハウを解説しています。
デイサービスでゆる〜く働くための基本は「1日の流れ」を体で覚えること。
最近、デイサービスで働き始めた介護士さんやこれからデイサービスで働こうと考えている方は下の記事を参考にしてください。
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